これじゃ本当の美食倶楽部(第6話)

『うちは注文してから、30分近く待ちますぜ。それでもよろしいんですかい?』
『まともな鰻を食べるのに、それぐらいの時間がかかることは、十分承知しているよ』
 これは、かのグルメ漫画の金字塔、『美味しんぼ』の1フレーズです。
 つまるところ、美味しい鰻料理を提供するには、注文が入ってから鰻の調理を始めるので、かなり時間がかかることを意味しています。
 それに反して、僕らの入った店は、ものの5分も経たないうちに、鰻が運ばれて来たのです。
 これはまさかやっちまったパターンじゃ? いや、しかし、冷凍とかそんなもので2500円を取るとは思えない。これはきっと普通に客の入りを想定して、事前に作り始めたものだろう。
 そんなことを考えながら、恐る恐る鰻を口に運ぶと……結果は残念無念! 別にその辺にあるような、冷凍物のような味わいです。
 僕と無双祭さんは、すぐにアイコンタクトで、店の選択を誤ったことを確認し合いました。しかし、店内で、不味いだの何だのとブツブツ言うのは、マナー違反だとわかっていたので、僕らは早々に鰻を平らげて、店の外に出ました。
 車に乗ったところで、僕は早速に口を開きます。
「クソッ、ドエライ味だったぜ! まさか浜松まで来て、あんなものを食わされるとは思わなんだ!」
 毒づく僕に、無双祭さんが同調します。
「確かに、あれは酷いな。あの値段であの味だったら、値段対比で考えれば、すき家の鰻弁当の方が満足度は上だよ」
「ふむ……」
 ジョイトイもやけに静かだったので、僕と無双祭さんに同調の様子……と、僕はてっきり思っていたのですが、そうでないとわかるのは、また後のお話でございます。そのときをお待ち下さい。
 なにはともあれ、昼の鰻戦線で撃沈した僕らは、気を取り直して、無双祭さんの希望観光地である『浜松フルーツパーク』に向かうことになりました。
 浜松フルーツパークは、竜ヶ岩洞から、そう離れた場所ではなく、昼食を取った鰻屋から15分程の距離でした。
 田舎道で渋滞もなく、快適な小ドライブを終えた僕らは、駐車場に車を停め、浜松フルーツパークへと入場しました。 (つづく)