原付の旅① 清水〜甲府220キロ (第6話)

 ゲンです。昼は笑うセールスマン(営業)をしております。
 先日、お客さん宅の玄関でしゃがんでいたときのことです。奥から犬がやってきました。玄関の高低差の関係で、ちょうど僕と鼻先数センチの距離で見つめ合う形に。視線を逸らしたら負けのような気がして、僕は微動だにせずいました。すると彼女(あとから聞いたら、メスでした)は、何を思ったのか、僕の顎から鼻先までを舐めはじめます。唇経由です。
 おいおい、まだ午前中だぜ……などと、思う余裕があるはずもなく、アヒィ! と思わず口を開けてしまった一瞬のことでした。彼女のベロが僕の舌をとらえ……(お好みでドラマ失楽園のテーマ=ZARDの『永遠』を流しながらお楽しみ下さい)。4回です。4回、舌と舌でのディープなスキンシップと相成りました。うあああああああああッッ!
 ……別に泣いたわけじゃありません。ワサビが目に染みただけです。少し。
 なんかまた放送コードギリギリでしたが、懲りずに原付の旅の第6話をどうぞ。


 信玄像を写真に収めるべく駅ビルを出た僕を待っていたのは、黒山の人だかりでした。なんじゃこりゃぁッ!? 辺りを見回すと、政党のノボリを掲げた人々がたくさんおります。9月10日――衆議院選挙の前日だったのですね。選挙カーの上には、最後のお願いにやって来た政治家が、今まさに演説を始めようとしています。クッ、まさかこのタイミングで、選挙活動に巻き込まれるとは! しかも自民党共産党、2党もいるじゃないか!
 彼らの熱気とは対照的に、新品の原付を一方の団体に囲まれた僕のテンションは、全盛期の野茂のフォークボールばりに急降下です。
(てめぇら、まかり間違って、俺の原付に手を触れた日にゃ、三族皆殺しだぞ!)
 急いで駆け寄ろうとしましたが、もはや近づくことができません(弱)。あきらめて茫然としていると、もう1つの団体の、人の群れの彼方に、信玄像が確認できました。人がさばけるまでに時間がかかりそうだったので、今のうちに写真に収めてしまおうと、けっこう距離があったのですが、「写るんです」で激写! 嗚呼、旅の最大の目的であった信玄像が、米粒ほどの大きさでしか、フィルムに収められないなんて……。
 しょんぼりしながら、候補者の話が終わるのを待つこと数十分(誰も君の話など聞きたくないのだよ、と38回ぐらい思いましたね)。ようやく原付を取り囲んだ一団が引いたので、一目散に愛車のもとへ。
「よくぞ無事でいてくれた。もうお前を離さない。なんか散々な目にあったから、もう静岡に帰ろう」
 疲れきって、力なく走り出したのは、午後5時半のこと。
 わずか30分の滞在時間中に、選挙運動に遭遇し、お目当ての写真がせいせい撮れないばかりか、出発の足止めをされるという、神がかり的なハプニングに見舞われた甲府の夕方でした。
 笑いの神が降臨したとしか思えない展開ですが、このあと、僕がさらなる奇跡をお見せすることになります……。 (つづく)