男レース 三島〜清水60キロ (第15話)

 今年も部屋にこたつを入れました。最高です! とにかく何もしたくなくなります。このまま死んでもいい……なんて思いながら、そのまま眠ってしまったら、目が覚めたときにすっかり風邪を引いており、本当に軽く死にかけた次第です。本当にバカだなぁ、俺。喉と鼻がきついやね。
 さぁ、今日は本編が長いので、さっさと男レースに移りましょう! ……もうこの企画だけで1ヵ月やってますが、懲りずにいま少しお付き合い下さい。


 由比駅を経った僕らは、旧街道からR1バイパス沿いに出て、太平洋自転車道路(うろ覚えですみません)を西に向かいました。同じ風景がずっと続くものですから、距離感が掴めず、走っても走っても進んでいないような気がして、精神的に辛かったです。すると、そんな僕の気持ちを察してか、並走していたジョイトイが、おもむろにZARDの『負けないで』を歌ってくれたのです。おそらく彼は、レース前に僕が冗談で、
「ラジカセを持っていって、走っている最中に『負けないで』と『ランナー』と『サライ』を流そうぜ」
 と、言ったのを思い出して(もちろん実際にはラジカセは持参していません)、気を遣って歌い始めてくれたのでしょう。
 一緒にカラオケに行っても、絶対に歌など歌わない彼が、俺のために歌を……感動のあまり思わず目頭が熱くなった……のなら良かったのですが、酸欠状態の僕には、そこまで考える余裕はありませんでした。僕の導き出した答えは、
「うるせぇッ! 横でガタガタ歌うんじゃねぇッ!」
 マジギレでした……。
 みなさん、ドン引きですよね? 僕も書いていてドン引きですよ(苦笑)。ここまでヒドイ奴、北斗の拳のザコにもそうそういないんじゃないすかね。最悪だ、俺。
 以後、言葉を発しなくなったまま、両名は駿河健康ランドの近くまでやって来ました。ここでバイパスは歩行者侵入禁止になるので、僕らは一旦海岸線に下りて、興津川の河口を少し遡り、52号線へと続く道を目指すことにしました。海岸線は靴に砂が入ると嫌なので、休憩をかねて歩いて進むことに。
 相変わらず無言のまま歩いていると、僕は足元にフグの死骸が落ちていることに気がつきました。この気まずいムード(←そうしたのはお前だろ)を何とかせねば……そう思った僕は、むんずとフグの死体を掴むと、ジョイトイに向かって投げつけたのです。いいコミュニケーションになればなと思って……疲れてたんだ! 疲れてたんだよ!
 フグは自転車を引いているジョイトイに直撃しました。 
「きっさまァァァァァァッ!」
 朝からの理不尽な仕打ちが積み重なったせいか、今のが一撃必殺になったのかは定かでありませんが、ついにジョイトイがブチ切れました。彼は僕が投げたフグの死骸を拾い直すと、僕の方に投げつけてきました。ですが、天下の講道館2段の僕が、(柔道では)白帯のジョイトイの投げるフグに当たるわけには行きません。あらよっと!
 どこにそんな余力があったのかは知りませんが、僕は軽快にフグをかわしました。しかし、それではジョイトイの怒りは収まりません。次に何を思ったのか彼は、これまた落ちていた大きめの鳥の死体を持ち上げました。
 え? 君、それ、うじ虫がわいてるよ?
 僕の疑問など、どこ吹く風。彼はうじ虫のわいている鳥の死体を素手で掴みあげる(!)と、僕の方に向かって、うっすらと微笑を浮かべました。
 僕は恐怖で動けません。お、お許しを……。
 恐怖に脅える僕に対し、彼は、なんら躊躇することなく鳥の死体を投げつけてきました……。
 うじ虫が宙に散乱しながら、僕の方に物体が向かってきます。ウワァァァァァァァッ!
 良い子のみんなは、生き物の死体――特にうじ虫がわいているもの――を人に向かって投げつけてはいけないナリよ。
 その後。無駄なことに体力を費やした大バカと中バカは、疲れきった足取りで、とぼとぼと興津川の河口を上り、一般道へと入りました。 (つづく)