美食倶楽部最大トーナメント (第25話)

 ゴッドファーザーの映画が見たい。……はい、てめぇでDVDでも買ってみます。それはそうと僕が卒業した学校って、ゴッドファーザーのビデオを見るだけで、英語の単位がもらえたんですけど、それって如何なもんすかね? 当時は疑問に思わなかったですけど、今思うと、けっこう面白い気が。まぁいいや。本編をどうぞ。



 ダミアンがどこからともなく呼び寄せた鳩の大群のせいで、勝負は着いたものの、会場は依然として騒然としていた。
「ダミアン、恐るべし」
 その様子を、花道の奥から密かに覗っていたラフィートは、思わず唸った。
「良くも悪くも兄さんらしい、と言ったところですか」
 突然、声を掛けられたラフィート。驚いて振り向くと、そこにはNOVの姿があった。
「ああ、NOVさん」
「すみません、驚かせるつもりはなかったのですが」
「いえ、とんでもないです。それよりも試合、残念でしたね」
「ええ、あのグーグーには、してやられましたよ。でもまぁ、これで試合に出場する緊張からは解き放たれましたからね。あとは純粋に試合を楽しみたいと思います」
「そうでしたか。僕も負けたのは悔しいですけど、もう試合に出なくても良いと考えると、ぶっちゃけ気が楽になりました」
「お互い、考えることは同じですな。のんびり観戦といきましょう」
 言いながら、NOVは1回戦の対戦表を取り出した。それをラフィートが覗き込む。
「次が1回戦最後の戦いでしたね。対戦は、トシさんVSエビフライさんでしたか。これはトシさんの勝ちは固いでしょうね」
「ほぅ。その根拠は?」
「なんたって、トシさんは美食倶楽部の譜代会員ですからね。あの絶え間なく連発されるベタなネタの応酬にあっては、如何にエビフライさんが凄腕とはいえ、耐えられる代物ではないかと思うのです」
 自信満々に話すラフィート。しかし、NOVには異論がある様子だ。
「そう簡単に話が展開すればいいのですが」
「え? と、言いますと?」
「いや、僕も直に見たわけではないので、大きな事は言えないのですが、エビフライという男、なかなかどうして大物らしいのです」
「そうなんですか!?」
「噂なのですが、彼の前評判が凄い。『ゲンのネタを拾い切れる男』。これが彼の通り名です」
「……そのゲンて、うちらの会長のことですか?」
「もちろんです」
 NOVの言葉にラフィートは戦慄した。ゲンと言えば、言わずとしれた美食倶楽部の会長なのだが、彼には厄介な点がある。言うことが突拍子もないのである。日常会話をしているかと思いきや、いきなり180°ベクトルが違う話を始めるのだ。しかも、その話は、昨日、彼が見て面白かったテレビ番組の一部分ネタだったりするから、当然、話を振られた相手は対応できない。それゆえ、彼と会話をすると妙な疲労感を覚える者も多いのだが、なんとこのエビフライという男、あのゲンの話を拾い切れるのだという。ラフィートが驚いたのも、無理もない話なのである。
「そ、そんなまさか! あのゲンさんの話を拾い切れるなんて、できっこない!」
「普通、そう思いますよね。あの人の難しすぎるキラーパスを全て受けきれる人間が、この世にいるものかって。……だから見届けようと思うんです。この目で、その伝説の男を!」
 にわかに盛り上がりをみえる2人。
 間もなく、その横をエビフライと思しき男が通った。 (つづく)