美食倶楽部最大トーナメント (第29話)

 今回からいよいよゲンVSキクチです。筆者的には、1番書きたかったネタ(……でも決勝じゃないのですが)なので、珍しく気合が入っております。たぶん、この1戦は長引くので、ご堪能下さいませ。



〈Aブロック代表決定戦 ゲンVSキクチ〉
 一般照明が消されて、リング上にスポットライトが集まる。すると館内に、『スパルタンX』が流れ始めた。続いて、ガウンを着込んだゲンが登場する。2回戦進出者には、その栄光を称え、自分のテーマソングに乗っての入場が認められるのだ。
 ゲンが入場を終えると、続いてキクチが『ザ・ホーリーウォー』に乗って登場。リングに両雄が並び立ったところで、キクチがマイクを手に取る。
「おい、ゲン! よく聞け、コラァッ! おめぇが美食倶楽部のお山の大将でいられるのも、今日今時分までだ! 覚悟を決めてかかってこいや!」
 ゲンが反論のために、マイクを手にしたのは言うまでもない。
「昔の偉い人は言いました。弱い犬ほどよく吠えるってな! いいか、今日は俺がおめぇより8億倍おもしれぇことを、世間様にわからせてやる!」
「黙れコラッ!」
「やるのか、雑魚がッ!」
 取っ組み合いになりかかる2人を、両陣営に着いた美食倶楽部の若手達が必死に引き離す。結局、離れたままジャンケンを行い、キクチが先攻、ゲンが後攻と決まった。試合開始の声が掛かると、キクチが攻撃に入る。
「えーでは、私のオリジナルネタをやります。驚いたときのマスオさん。エエーッ!?」
 なんとキクチ、いけしゃあしゃあとオリジナルネタと言いながら、どこぞの若手芸人のネタを披露する暴挙に打って出る。しかし、ゲンにはキクチの手の内は読めている。
 相変わらず、セコイ手を使う野郎だぜ。
 余裕綽々で耐えたゲンは、攻守交替の声が掛かると、勢い良く牛乳を吐き出す。続いて、これまた吐き出すかのように、キクチを揶揄する。
「このパクリ野郎」
「瞬殺じゃ、世紀の1戦にそぐわねぇだろう。様子見だ。いい気になるなよ。てめぇは、生きてるんじゃなくて、生かされてるんだ」
「ほざけ」
 キクチが牛乳を口に含んだところで、ゲンの反撃が始まる。彼は1回戦に続いて用意したCDラジカセの再生ボタンをオンにする。会場に流れたのは、ダ・カーポの『野に咲く花のように』である。この曲が始まった時点で、ゲンがとあるモノマネを始めたのは言うまでもない。
「ぼ、ぼ、僕はおにぎりが大好きなので……。これはおにぎりなのかなぁ?」
 そう言って、彼が取り出したのは、おにぎりなどではなくエビスビールの500ml缶。プルタブを外すや、彼は勢い良くそれを喉に流し込んだ。肝機能の著しい低下と引き換えに爆笑を誘う、ゲン宴会時の必殺芸『清飲み』炸裂である。
「や、やっぱりおにぎりは最高だなぁ」
 また飲む。会場は大歓声・大爆笑に包まれた。
だがキクチには耐えられる代物だったらしく、攻守交替の声が掛かるまで、キクチの口から牛乳が漏れることはなかった。 (つづく)