美食倶楽部最大トーナメント (第30話)

 そろそろ何か新企画をしたいと思うのですが、この話が完結しないことには、発表の場がないので、二の足を踏んでいます。さっさと完結させたいですね。



 最初のネタから奥義『清飲み』を繰り出し、必勝を狙ったゲンであったが、キクチには通用しなかった。胃の辺りを右手で押さえながら、ゲンが唸る。
「てめぇ、よく耐えたじゃねぇか」
「俺を見くびるなよ。こんなもん、お茶の子さいさいだ。胃が痛ぇみたいだな。すぐ楽にしてやる」
 苦しげに再び牛乳を飲み込むゲンに向かって言うと、キクチが次のネタを始める。
「ウミガメの産卵」
 言うなり彼は、地べたに伏して、ウミガメのそれを模す。
 しかし、観客の大爆笑はさらうものの、ゲンに牛乳を吐き出させるまでには至らない。
「チッ、耐えやがったか」
「おめぇのな、好きにはさせねぇよ。ぜってぇ」
 続いてゲンの2回目の攻撃。
「1人プロレス。猪木対長州」
 そのシュールさゆえ、最近では封印している1人プロレスシリーズを復活披露したのである。1人で汗だくになって動き回るゲンに、会場の各所から失笑が漏れる。しかし、キクチを笑わせるまでには至らない。
 その後、キクチ、ゲンとも現在では語り草となっている必殺ネタを惜しむことなく繰り出した。だが、会場こそ爆笑の渦に巻き込むも、互いに対戦相手を笑わせるには至らない。熱戦1時間、互いに18回の攻防を繰り返したものの、戦いは未だに続いていた。体を張って珠玉のネタを、昔と色あせない姿で再現するゲンとキクチに、会場は徐々に引き込まれていった。観客の中には、涙を流す者すらいた。
 そんな2人の凄絶な戦いの決着を見届けるため、NOVとラフィートは、リングサイドに陣取っていた。これまで一言も語らずに勝負の行方を見守っていたラフィートだったが、ここに至りNOVに声を掛ける。その声は震えていた。
「あの」
「……なんでしょう?」
 NOVも試合に引き込まれていたのか、反応するまでに少し間があった。
「なぜ決着が着かないのでしょうか? 2人とも、あんなに面白いネタを惜しみなく繰り出していると言うのに。僕だったら、とっくに笑っています」
 ラフィートの抱いた疑問に対し、NOVには、その理由が分かった気がした。 (つづく)