名古屋食い倒れの旅(第10話)

「ええい! こうなった以上は、もう某有名チェーン店の味噌カツで結構だ! これがわざわざ静岡からやって来た旅人に対する仕打ちかッ!」
 休業の張り紙にブチ切れ、今にも入り口の扉に鉄拳を叩き込まんばかりの僕を、NOVさんとホリコが必至に諌めます。
「おやめなされぃッ!」
「ガイドブックによれば、この近くに、もう1軒の別の味噌カツ屋があるそうです。そこに賭けましょう」
 美食の重鎮達に諌められては、僕も狂犬、否、強権を発動して、むりやり某有名味噌カツチェーン店に参加者達をいざなうわけにもいきません。
「ふむぅ、みながそこまで言うのなら、最後の店に望みを繋ごう」
 こうして僕らは、絶望の淵から立ち上がり、次なる味噌カツ屋を目指し始めました。人間の慣れってのは、恐ろしいもので、この頃になると、すっかり大衆の面前でガイドブックを広げることにためらいがなくなりましたね。
 ビルの地下にある店だったため、見つけるまでに一苦労しましたが、とうとうお目当ての味噌カツ屋を発見。もちろん今回の店は開いています。
 いやはや、途中で諦めて某有名味噌カツチェーン店で妥協しなくて良かったよ。と、安堵したのも束の間、ふと周囲を見回した僕は、あるとんでもない事実に気付きました。そして思わず絶叫したのです。
「ウワァァァァッ! ここって、昼に(味噌カツ屋を探しているときに)何度も通った道じゃねぇかッ!」
 そうなんです。最終的にたどり着いた味噌カツ屋は、なんと昼に味噌カツ屋を探して栄の街を歩き回っていたときに、何度か通った道の傍らにあったのです。
 いくら地下にあって気づき難かったとはいえ、最初っから、ここを見つけていれば、あんな屈辱(某有名チェーン店で妥協)や、こんな屈辱(そんな某有名チェーンにも並ばないと入れない)にまみれることもなかったかと思うと、なんだかやるせない気持ちになりました。
「んぁぁ、なんということだ。まさかここに味噌カツ屋があったとはな(ディラン風)」
 それでも気を取り直して、店内に入ると、なかなか落ち着いた雰囲気のお店です。こりゃ期待できるかもと、4人とも迷わず味噌カツを注文しました。予感は的中。なかなか良いお味でございました。個人的には、山盛りのキャベツを食べる配分を間違えて、最後にキャベツだらけになったのが、やや難儀しましたが、まぁこれは100%俺が悪いわ。
 存分に味わったところで、店のほうが混みあってきたので、僕らは会計を済まして外に出ました。 (つづく)