新作プロローグ(第3話)

 騒然とする玄関先では、とても話ができる状態ではない。NOVとジョイトイは、総理大臣を重役室へと通した。
 総理大臣は椅子に腰を下ろすと、付き添って部屋に入って来た2人のSPに部屋の外で待つように指示を出した。SPが完全に退室したところで、総理大臣が対面に座したNOVとジョイトイに対して、口を開いた。
「このたびは、急な訪問で騒がせてしまって申し訳ない。なにせ急に静岡への遊説が決まったものだから、事前に連絡ができなくてね」
 分刻みでスケジュールがあるはずの総理大臣が、その間を縫って美食倶楽部に訪問するとは、いったい何事だろう? 考えてみるものの、一向に検討がつかないNOVにジョイトイであった。
 ジョイトイが総理大臣に訊ねる。
「今日はいったいどんな用件で、こんなむさ苦しいところへ?」
「なに、ちょっとした私用でね。ところでこちらの倶楽部の会長であるゲン君とは、君のことですか?」
「いえ、私は当倶楽部の取締役でハルロー・オブ・ジョイトイと申します。只今、会長のゲンは不在ですので、こちらにおるNOVと共に倶楽部の実質的な運営を行っております」
「なんと、ゲン君は不在でしたか。それは残念だ。ぜひとも直接お目にかかりたかったのだが」
「ゲンに御用だったのですか?」
「半分はね。残り半分は、君ら現執行部に」
「そうおっしゃいますと?」
「私には10歳になる孫娘がいるんだがね。その子は生まれつき体に病気があって入退院を繰り返しているんだ。楽しみの少ない病院生活で、その子が唯一楽しみにしていたのが、ゲン君が書く日記、洒落た言い方でいうとブログというのかな。それだったわけだよ」
 首相の口ぶりからして、何となく言いたいことを察したNOVであった。
「つまりこういうことですね。最近、すっかりブログの更新が途絶えてしまって、お孫さんがガッカリしている。もし良ければ、テンポ良く更新を行ってくれないかと」
「話が早いね。そのとおりだよ。孫娘の我侭に1国の首相が振り回されるのかと君達は笑うかもしれんが、やはり孫の可愛さには勝てん。このとおりだ、よろしく頼む」
 そう言って、深々と頭を下げる首相。
 その姿に、ジョイトイとNOVは苦々しげに目を合わせた。 (つづく)