新作プロローグ(第4話)

1国の首相に頭をさげられても、如何ともし難い状況に変わりはない。
 ゲンが消息不明であるとの旨をジョイトイから聞かされると、首相の表情が曇った。
「なんと、ゲン君は行方知れずと?」
「はい、会員はおろか、我々、取締役連中でもヤツの所在は定かでありません」
「連絡も取れないのか?」
「はい。残念ながら」
「ふぅむ。そうかね。……つかぬ事を聞くが、気を悪くしないでくれ。彼がいなくても、美食倶楽部の企画を行うことはできるんじゃないかね? キクチ君を中心に、NOV君とジョイトイ君が両脇を固めれば、無理のない話だと思うのだが。笑いのエースは、君とキクチ君なわけだから」
「まぁそりゃそうなんですけどね。やはりゲンがいないと企画が始まらないんすよね。上手く説明できないんすけど……」
「そうかね。やはり美食倶楽部の企画を復活させるには、ゲン君が必要不可欠なわけだね」
「そのようにご理解してもらえば幸いです」
「そうか。わかったよ。無理を言ってすまなかったね」
 そう言って立ち上がり部屋を出ようとしたところで、首相はジョイトイの方を振り向いた。
「もし、私がゲン君を探し出し、彼を美食倶楽部に復活させた日には、またブログを再開してくれるのかい?」
「おそらくは、そうなるでしょうな。ゲンが全盛期の気力で復活したらの話ですが」
「そうかね。わかったよ。突然お邪魔して申し訳なかった。失礼するよ」
 重役室を出ると、SPに囲まれ、首相は美食倶楽部の事務所を後にしていった。
 一行が立ち去ったところで、ジョイトイはNOVと目を見合わせた。
「やれやれ、まるで嵐のようでしたね」
「まったくで。しかしまぁ、なんですねぇ。どこも爺婆は孫バカなんすかねぇ」
「ですなぁ。それにしても首相の孫娘が、ゲンさんのブログの愛読者とは思いませんでした」
「世の中、狭いですなぁ。ちゅーか、インターネットって怖いですねぇ。どこでどう繋がっているか分からないわけですから。それにしても気になるのは、最後の件ですが」
「首相がゲンさんを探すって件?」
「ええ」
「んなこと、本当にやるわけないでしょう。もし税金でそんなんしたら、俺は次の選挙は民〇党に投票しますわ」
「ですね」
「さて、経費の決済を続けるか……」
 こうして美食倶楽部の騒乱は収まったかに見えた。 (つづく)