新作プロローグ(第5話)

 美食倶楽部本部への突撃訪問から2日後の首相官邸。某国の大臣と面会中の総理大臣のもとに、秘書から何やら耳打ちがなされた。
 その直後、総理大臣は適当に話を切り上げ、個室へと戻った。直後、総理大臣は秘書に確認を取る。
「本当か? 美食倶楽部会長ゲンが見つかったというのは?」
「はい。密かに全国の警官を動かし探らせたところ、それらしき男が神奈川県丹沢山系の某所で見つかったそうです」
「さっそく今から孫を連れて向かおう。さすがにワシが頼めば、ゲンも復帰を嫌がるまいて」
「それはそうですが、総理にはこの後も予算委員会、五輪選手慰労会への参加、夜は官房長官との夕食会と、スケジュールが詰まっておりますぞ」
「そんなもの代役で十分務まるわ。なんとかしておけ。ともかく私は、もう行くぞ。玄関に車を用意しておくんだッ!」
「総理ッ! そんなわけには行きません! 総理ッ、お戻り下さいッ!」
 秘書の切ない叫びも虚しく、総理大臣はさっさと部屋を出て行ってしまった。
 数時間後、総理大臣と孫娘の姿を丹沢山系で見ることができる。主治医に何とか外出許可を取り付けた総理大臣は、孫娘を引き連れ、公用車を利用しやって来たのである。
 ゲンの住まいと思しき古い小屋の前に差し掛かったところで、運転手は車を停めた。続いて総理大臣と孫娘が車を降りる。そしてSPに案内され小屋へと向かったのであった。
「こんにちは。失礼します」
 SPが戸を開けると、中には裸同然で、釣ってきたのであろう川魚を焼いて頬張っている男がいた。髪はボサボサ、髭は伸び放題、まともな社会人とは到底思えない風体である。
 急な訪問者に不快感を覚えたのか、男は眼光鋭くSPを睨みつけた。しかし、SPとて百戦錬磨の猛者である。恐れることなく用件を切り出した。
「世界に冠たるアルティメット笑い集団、美食倶楽部会長ゲン殿とお見受けいたす」
 SPの言葉に、小屋に居た男の細い目が見開いた。 (つづく)