ゲン拉致されるⅡ(第4話)

(僕だけ)酔いも冷めやらぬまま、洞窟の出口に向かうと、何やら外から別グループの声が。別になんてことないと言えば、それまでなのですが、何となくこんな足場の悪いところですれ違いをしたくないと思ったので、ややペースアップして出口へと急行。するとそこには、おばちゃんがしゃがんでいました。彼女は僕らに話しかけて来ます。
「あら、先客がいたのね。こんにちは。この中って、けっこう長いの?」
「ええ、けっこう。今見えてるところで、3分の1じゃないっすかね」
「ふーん。それじゃあ、ライトがないと無理ね」
「ええ。もしよければ、このライトを使ってくれてもいいですけど」
 どうせ、拾い物なので、あげても全然よかったのですが、最深部までの距離を聞いたおばちゃんは、すっかり心が折れたようで、受け取ろうともしませんでした。
 ふん、その程度の覚悟で人穴に来るなんて十年早いでござるな。
 そんな風に思いながらも、おばちゃんと、その家族に笑顔で挨拶をして(腹黒い)、僕らは車に戻りました。
「さて、どうするよ?」
 車内でキクチが訊いてきます。
 来た道を戻るのも芸がないと思ったので、僕は指示を下します。
本栖湖から下部温泉を経由して、52号線に抜けて帰ろう」
「了解」
 人穴を出て、ドライブをすること数十分。僕らは富士5湖で1番西側にある本栖湖へとやって来ました。特段、見るべきところもなかったのですが、せっかく来たので湖畔に立ってみることにしました。
 美食倶楽部が湖畔に立つ。これは誰がどう考えても、誰かが湖に転落し、笑いを提供するべきです! 断固として!
そう思った僕は、相撲でいうところの、小手投げ(肘間接を極めて放り投げる荒技)をキクチに仕掛けましたが、ヤツも然るもの。僕の考えはすっかり読まれていたようです。
「させるかッ!」
 掟返しの小手投げ返しを食らった僕は、すっかり対応が遅れて、体のバランスを崩されます。しかし、正月から、しかもこの日が誕生日の俺が、湖に落ちるわけには絶対にいきません。なんとか身を翻し、体勢を整えようとした瞬間のこと。ポチャリと水面に何かが落ちる音がしました。
恐る恐る目をやると、水面に落ちたのは、紛れもなく俺の財布! オーストラリアで買った俺のヴィトンの財布ッッッ(←厭らしい)!
「NOォォォッ!」
 この日から僕は人間への復讐を誓いました(笑)。
 悲劇を乗り越え、僕らは本栖湖を出発しました。 (つづく)