風林火山特別篇(第6話)

 脱兎の如く駆けて、僕らは死地を脱出しました。
「やれやれ。エライ目に遭ったな」
 一息つく僕の横で、烈火の如く怒るジョイトイ
「クソッ! あの親父の野郎、まんまと俺達を嵌めてくれやがった」
 そんなジョイトイを諭すのは、無双祭さん。
「いや、あのおじさんが教えてくれた道は正しかったと思うよ。我々が進むべき道を間違えただけで」
 僕も工事現場の交通整理のおじさんが、適当をぶっこいたとも思えなかったので、無双祭さんの意見が正しいと感じ、彼にのっかることにしました。
「俺もそう思う」
 ん、待てよ。交通整理のおっさんの意見が正しかったならば、間違えた道に皆を誘導したのは、俺ってことになるな……。ここは話題を変えなければ!
「しかしまぁ、何はともあれ逃げおおせて良かったよ。物見遊山でやって来て、山梨県警の世話になった日には、とてもブログに書けん」
 僕の発言にジョイトイが、すかさず突っ込みます。
「ブログの心配よりも、職を失う心配をしろよ。……しかしまだ安心はできんぞ」
「なんでだよ?」
「防犯カメラ作動中の看板が、そこかしこにあっただろ。撮影されてたら、証拠が残るかもしれん」
「確かに今日の俺達、服の色合い的にも目立つからな」
 僕がそう言ったのは、この日の僕らの服装は、人目を引きやすいカラーリングだったからであります。青いシャツの僕、赤いシャツの無双祭さん、ウルフシャツのジョイトイ……。
山梨県警が狼のTシャツを着た男とかで、指名手配のチラシとか出したら、お前1人でおとなしく捕まれよ。俺と無双祭さんのことは、墓場まで持っていけ」
「いや、間違いなく貴様らも道ずれにしてやる」
 麗しい友情に涙。
 そうこうしながらも、細い路地裏のような道を進んで行くと、今度は外観からも一発で廃墟と分かるぐらいほど、朽ち果てた建物が左手に現れました。
「なんかスゲェ街だな、甲府って。普通、女子高の近くに、こんなおどろおどろしい物件を放っておかねぇだろうによ」
 甲府という街の秘めたるポテンシャルに度肝を抜かれながらも、僕らは甲斐善光寺を目指します。 (つづく)