ゲン、ひこにゃんと戯れる(第4話)

 最初のうちこそ、『羽柴秀吉館址』など、史跡を楽しむ余裕もあった(ジョイトイに至っては、走って石段を登るパフォーマンスをしていた)のですが、中盤以降は、想像していたとおり、ぬかるみが酷い場所を避けつつ、ただひたすら山道を進む作業が続きました。
 保護者に走るなと言われているにも関わらず、ひたすらに走り続ける関西弁の少年。
 こんなところ、登りたくねぇと、祖父母に切れだし、とうとう祖父と大喧嘩を始める少年。
 色々なヒューマンドラマを垣間見ながら、9月にしては冷たい雨が降りしきる中、僕らはビショ濡れになりながら(傘は差しているんだけど、横殴りの雨が酷くて)、山頂の本丸址を目指しました。
 よく信長関連の映像を見ると、安土城から琵琶湖を臨む絶景が映し出されることが多いのですが、この日も雨こそ降ってはいるものの、眺めは素晴らしいに違いない。その思いを胸に、僕らはこの苦行に挑んでいた気がします。
 だって、あの信長様が惚れこんだ景色でしょ。良いに決まってるって!
 そしてとうとう山頂に到着した僕らを待ち受けていたのは、琵琶湖の絶景……ではなく、ただの濃霧。何も見えないくらいの濃霧。ひたすら濃霧。
 嗚呼、如何にも俺達らしいオチだよね
 すっかり意気消沈した僕らが、トボトボと重い足取りで下山したのは言うまでもありません。道中、往路とは異なる道で帰ったので、仏像のある山門とかが各所にあったけど、もう見る気力すらなかったよ。
 しかし安土城址での話は、これだけで終わりません。
 無事に山を下り、トイレに寄っている間に、事件は起こりました。
 なんと朝から降り続いていた雨が、このとき突如として、ゲリラ豪雨に姿を変えたのです。僕らは慌てて屋根のある休憩所の下まで移動しました。
 傘を持っているとはいえ、この雨脚では用を足さないことは明白。事態は深刻です。
 以下、男3人の緊急ミーティングの様子です。
「ありゃりゃ。始まったな、こりゃ。どうする? 車まで走るか? それともやむまでここで待つか?」
「最近流行りのゲリラ豪雨なら、そんなに長時間この雨の勢いは続かないと思うから、待つのも手だと思うけど……ただ時間がね。今の時刻がもう3時近い。大概の城は、夕方の5時にもなれば閉まっちまうから、ここでのんびりしていると、彦根城に入れずじまいなんてオチも考えられるぞ」
彦根メインで旅を企画しておいて、結局、彦根城に行けなかったなんて日には、もう目も当てられないよね」
 となれば、僕の下した決断はこれしかありません。
「やむを得まい。強行だ!」
 妙に盛り上がったところで、次回に続きます。 (つづく)