デッドリードライブ 〜諏訪篇〜(第9話)

 その後、無双祭さんの駆る車は、順調に静岡県浜松市(旧引佐町)に到着。ここは無双祭さんが、学生時代に住んでいた街だそうで、通過しながら、バイト先、住んでいたアパート、通っていた学校などを案内してくれました。
 僕は親しい友人等が、こんな場所で生活していたのかと、その土地その土地の風景を見ながら、あれこれ想像を膨らませるのが好きなので、けっこう楽しめました。
 ある程度、案内をしてもらったところで、僕は無双祭さんに告げました。
「俺の行ってた大学は、都会のど真ん中にある学校でね。キャンパスとは言うものの、普通のビルが建っているだけ味気ないものだったんだよ。だからこういうのどかな所にある広々としたキャンパスに憧れるんだよねー。住んでいたところも、色々あるんだけど、ありすぎて持て余すような場所だったから、今にして思えば、これぐらいのところで大学生活を送れたら、ちょうど良かったと言おうか、楽しかった気がするんだよね」
 そんな感想を述べると、無双祭さんからは、次のようなご意見を頂きました。
「それはないものねだりってやつだよ。ここは本当に、何もないところさ。なんせゲームショップ(僕らの生活になくてはならないもの)に行くのに、山を1つ越えて行かなきゃいけないぐらいで。今、沖縄で米軍基地のおき場所で揉めているけど、別にここに誘致すれば、特別揉める気がしないぐらい、とにかく何もないんだ」
 ……言及すると、どえらいバッシングを受けそうな発言も飛び出しましたが、まぁそれほど何もない不便なところであったとの解釈に留めておきましょう。そんなことを話しているうちに、いよいよ日が暮れてきたので、僕は夕飯の話題を切り出しました。
「晩飯、どうしようか? 何が食べたいものがあるっすか?」
 きっと、前々から行きたがっていた『餃子の王将』あたりを提示されるかと思いきや、無双祭さんからは、意外な回答が返ってきました。
「そうだねぇ。今日はオムライスが食べたいかな」
 少し意外な気もしましたが、別にオムライスは嫌いでないですし、何しろ今回の功労者(運転手)が言うことなので、もちろん僕は賛成の意を表明します。
「オムライスか。たまにはいいですなぁ。どこかオススメでもあるんですかい?」
「個人的にはパルシェ(JR静岡駅の駅ビル)にある店がいいかな」
 僕は腕時計をチラ見して応えます。
「でも今の時間からすると、パルシェに着くのは8時ぐらい。下手すると9時になりますよね。その時間に果たしてお目当ての店が営業しているか、怪しいところではあるよね」
「そうかぁ」
「俺、3日ぐらい前に所用で浜松の駅ビルに行った(実話です)んだけど、そこにもオムライスの専門店があったから、そこにしたらどうかな? そこならちょうど7時ぐらいには晩飯にありつけそうだし」
「じゃあ、そこにしよう」
 無双祭さん号は、浜松駅付近へと向かいました。 (つづく)