デッドリードライブ 〜天橋立篇〜(第1話)

 『デッドリードライブ 〜諏訪篇〜』から約2週間が経過した平成22年5月21日(金)。職場の仲間との飲み会に出席するため、静岡の繁華街へと向かっていた僕のところに無双祭さんから着信が入りました。
「もしもし、ゲン君?」
「これはこれは無双祭さん、2週間前はどうもお疲れ様でした。今日は、いったいどうしたんですかい?」
「実は折り入って話があってね……」
「なんです?」
「明日、天橋立に行かないかい?」
「えっ……」
 僕が絶句したのは言うまでもありません。
 なんせ天橋立っていやぁ、あんた、京都の北の端、日本海に面するところ。静岡からどれぐらい距離があるのか、想像もつかないくらいです。
「うーん……」
 電話越しに唸る僕に、無双祭氏は色々な好条件を提示してくれます。
「もちろんこちらが車を出すし、助手席で寝てくれてもいいし、なんだったら交通費も全額出すから、なんとか考えてもらえないかなぁ」
 確かに無双祭さんからの提案は魅力的ではあるのですが、なんせ話が急であり、心の準備ができていないため、このときは、正直なところ、そんな乗り気にはなれませんでした。
 しかし、ここで僕は考えるわけです。自分には、いつしか日本三景である天橋立に行きたいという気持ちがあること。明日、明後日(土・日)は、特に予定がないこと。そして何より、前回の諏訪へのドライブで、無双祭さんに散々な迷惑をかけてしまったことを。
 あれだけ借りを作った無双祭さんの頼みを断ったら、俺は本当の下衆野郎だ! 最低人間だ!
 そう思ったときの僕の答えは、もうこれしかありません。
「僕を、僕を、天橋立に連れて行って下さい!」
 連れてってと思わず頼んでしまったのは、自損事故直後で、運転に自信を失っていたからでしょうか。
 翌日、午前8時に無双祭さんが、僕の家に迎えに来てくれるとの約束を取り付け、僕らは通話を終えました。 (つづく)