デッドリードライブ 〜天橋立篇〜(第9話)

「無双祭さん。朝、8時前から7時間もの運転をして天橋立に到着し、そこでかなりのウォーキングを行った上で、復路に突入。5時間半ほど運転したのち、岐阜の繁華街で1時間程遊び、ここまで至ったあなたに、ほとんど体力は残されているとは思えません。どうでしょう、慎重を期した運転を約束しますんで、俺と運転手を交代しませんか?」
「いや、そういうわけには行かないよ。この車の保険は、家族限定特約で入っているからね。万が一あったときに、ゲン君が運転手じゃ何の保障も受けられないから」
「そうでしたかい。……とはいえ、走行車線のトラックの後ろを、同スピードで走る運転であれば、事故の確率は相当少ないように思えます。その間、少しでも休んで体力が回復できたら、また交代しますんで、しばらく運転を代わってみませんか(*これは追い詰められた状態だからこその提案ゆえ、通常時、良識のある方は絶対にマネしないで下さいね)?」
「だが事故の可能性がゼロとは言い切れない。だから運転は代わるわけにはいかないよ」
 そういうと無双祭さんは、倒していた席を起こし、運転の姿勢に入りました。
「とりあえず、私が行けるところまで行くよ」
「もう体力の充電はできたんですか?」
「まぁ、こんなもんでしょう。どこまで持つかわからないけどね。そうだ、俺の持ってきたある特殊なCDを流そう。これを聞けば、多少、眠気も遠のくと思われる」
 ここまでも散々、無双祭さんが持参したオリジナルのベストCDを流して来たはずなのに、はたしてこの場面でどんなCDを流すかと思いきや、取り出されたCDを出されて僕は思わず赤面。
 そこには、今からおよそ15年程前、僕らが中坊だった頃に流行っていた某恋愛シュミレーションゲーム『ときめきメモリアル』のドラマCDがあったのです。
「こっ、こっ、こっ、こいつをかけるんですか? この環境で!?」
「構わん、やってくれ!」
 CD挿入!
 スピーカーから溢れ出したのは、想像を遥かに越えるほどの聞いていて恥ずかしい音声の数々。確かに眠気は吹き飛びましたが、なんかこう、代わりに人としての品格を失っていくような気がしました。
ああ、大丈夫。俺は、まだ精神を病んじゃいないよ……。
 1時間後、CDのおかげで、何とか愛知県と静岡県の県境付近までやって来た僕らでしたが、CDが1周してしまいました。それすなわち、刺激がなくなり、再び睡魔が現れる状態になったわけです。
 さぁ、刺激が続いているうちに、僕らは静岡ICまで行けるのか!?
 はたまた県境付近に散るか!?
 睡魔がかなり恐ろしい悪魔であることを証明する僕らの旅も、残りわずかとなりました。次回にご期待下さい。凄んげぇぞ! (つづく)