これじゃ本当の美食倶楽部(第4話)

 竜ヶ岩洞から立ち去るべく、駐車場へと向かって歩いていると、ジョイトイがある物を発見して立ち止まりました。
「あれ、食べたいな」
 彼がそう言って指差したのは、鮎の塩焼きの売店
 確かにそそられる気持ちもわからんでもないが……。
 彼が重大な事を記憶から欠落させている気がして、僕は忠告しました。
「おいおい、これから美味しい鰻を食おうってときに、わざわざ別の物を腹に入れるって言うのかい。確かに美味そうにも見るが、こういってはなんだが、所詮、鮎は川魚。そこまで美味いものでもあるまいよ。止めておけ」
「そうか、そうだよなぁ。……でも何だか妙に美味そうに見えるんだよなぁ」
 僕の忠告を聞いても、ジョイトイは諦め切れない様子。
 となったら、無理矢理に鮎の購入を引き止めて、後でブツブツ言われても面倒なので、僕は彼の意思を後押しすることにしました。
「そこまで言うなら、お前は迷わずに鮎を食うべきだ。ここで食えば、それまでだが、後からあのとき食っておけば良かったと後悔したら、取り返しがつかないからな」
「うん、そうだよな。……ゲンさん、俺、鮎を買ってくるよ!」
 吹っ切れた様子で、売店に駆け出して行くジョイトイの後ろ姿を見ながら、僕は無双祭さんに告げました。
「よくやるよ、あいつも。気持ちはわからんでもないけど、このタイミングで食べるべきではないことは、30(歳)にもなれば分かりそうなものだがねぇ」
「そうだよねぇ」
 そんなことを言いながらも、何もせずに日なたでジョイトイを待っていたら、干からびそうになったので、僕と無双祭さんは、近くにあった農産物の直売所を見学していることにしました。
 そこに向かって歩いている最中、僕の脳内に稲妻が走り、ある1つの嫌な予感が噴出してきました。僕は無双祭さんに、その思いを告げます。
「む、無双祭さん! ちょっと思いついちゃったんですけど……」
「なんだい?」
「あいつ、俺達の分まで鮎の塩焼きを買ってきたりしないよね?」
「まさか。それはないでしょう」
「だよね。俺の取り越し苦労だよね。いくらあいつでも、そこまで空気を読まないわけがない。そんな道連れみたいなことをするはずがない……」
 そんなやり取りをしながら、直売所を見ていると、ジョイトイが戻ってきました。鮎の塩焼きを3本持って……。
「お待たせ。これ、1本ずつ食おうぜ!」
 僕と無双祭さんの顔が、引きつったところで、次回に続きます。 (つづく)