金沢奇行(第10話)

 昼食を終えた僕らは、土産物を購入したのち、車へと戻りました。え、土産物買い過ぎだって? 仕方ないじゃない、静岡県人だもの。
 今にして思えば、東尋坊タワーだとか、東尋坊で身を投げた人の遺体が流れ着くと言われている雄島などにも足を運べば良かったのかもしれませんが、このときは、不思議とそんな気分にならなかったんですよねー。自ら進んで行く事はないかもしれませんが、なにかのはずみで、また東尋坊を訪れることになったら、今度はそちらにも足を運んでみたいと思います。
 東尋坊を後にした僕らは、その後、田園風景の広がる福井県北西部の校外を疾走し、北陸自動車道丸岡ICへ。
 北陸自動車道の状況は、相も変わらずスカスカ。けっこう覆面パトカーを見かけたので、あまりスピードを出しすぎないようにしながら、静岡を目指します。
 2時間ほどかけて、米原ジャンクションまで到着し、北陸自動車道から名神高速道路へ突入。この辺りで、僕は軽い偏頭痛に襲われ始めました。もちろん騒いで心配させるのもアレなんで、ここは男らしく黙っていようと思ったわけですが、少し休めば直るかもと思い、ドライブ開始から2時間経過していたこともあり、休憩を提案。利にかなっていたので、この案は受け容れられ、僕らは最寄りであった伊吹SAに停車。
 トイレを済ませたところで、僕は車へと一足先に戻り、頭痛対策を考えます。
 これはきっと慣れないベッドで眠ったことで、よく寝たつもりが、実際のところ眠りが浅く、睡眠不足気味となり起こっている症状に違いない。こうなったら、これしかあるまい。
 僕が取り出したのは、家から持参したメガシャキ。念のために書き加えておきますが、僕の家庭は、眠気覚ましが常備されているようなアバンギャルドな家ではなく、以前に旅に出たときに、もしや必要になるかもと購入したものの、使わずにいたものがあったという経緯です。
 しかしながら、この手の強い眠気覚まし飲料には、僕にはトラウマがあるのです。そう、『さよなら、マーチの旅』で、前日に旅を楽しみにし過ぎて、2時間ほどしか眠れず、重度の睡眠不足に陥った際に、朝から夕にかけて日に数本服用した結果、あまりの刺激の強さに、夜に寄った鰻屋で、鼻血が止まらなくなった、あの忌まわしき事件が思い起こされるのです。
 しかし、過去のトラウマを乗り越えるためにも、ここはメガシャキを飲むべきだと、僕は決意しました。
「フフ、もはや2度とこの手の眠気覚まし飲料を飲むこともないと思ったが」
 僕はメガシャキを飲み干しました。 (つづく)