デッドリードライブ 〜飯田篇〜(第11話)

 貧乏神神社を出たところで、僕は運転席の無双祭さんに呟きました。
「……無双祭さん。なんで俺達、あんなもののために、静岡から6時間かけて、ここまで来ちまったんですかね?」
「あまり深く考えるな、ゲン君。虚しくなるだけさ。全ての元凶は、母さんの持っていた旅行チラシで、『貧乏神神社』なる文言を見つけて、興味をもったあっしにある」
「それを言うなら、『貧乏神神社』なる単語を聞いて、心をときめかせた俺も同罪ですわ。いやー、しかしまぁ不完全燃焼な飯田興行になりましたなー」
 僕が言ったときです。無双祭さんが、何かを決意したかのような強い口調で言いました。
「このまま清水に帰る気には、とてもなれないよね?」
 その言葉に、僕は率直に思ったことを述べました。
「まぁねぇ。ただ飯田で他に行きたいところなんて、俺には咄嗟に思い付かんよ」
「なら、あっしに付き合ってくれないかい? ここに来る途中に『天竜峡』ってあったのは知っていると思うけど、そこに行ってみたい」
 無双祭さんの言う『天竜峡』が、具体的にどんな場所かは知りませんでしたが、自然的な観光名所である気が直感的にしました。僕は自然系の観光名所が好きで、なおかつ帰路の途中にある点もポイントが高いので、これは異論なしでした。
「では天竜峡に参りましょうか」
 飯田市街から天竜峡は、そう遠い距離ではなく、道路標識の案内に沿って行った結果、30分程で到着しました。
 適当な駐車場に車を停めて周辺の様子を伺ったところ、天竜峡では主に川下りをして楽しむスポットだと言うことが察せられました。
 無双祭さんが僕に訊ねます。
「せっかくここまで来たのだから、舟に乗って川下りをしてみない?」
 僕も同じ気持ちだったので、迷うことなくイエスと返答したのですが、少し気がかりなこともありました。
「しかし、まだ乗船の受け付けをやっているかね?」
 僕がそう言ったのは、時間も午後3時半過ぎと、けっこう夕暮れに近い時間だったことと、天竜峡付近の観光客が、まばらだったからに他なりません。
「まぁ受付で、聞くだけ聞いてみようじゃないか」
 僕と無双祭さんは、川下りの受付へと向かいました。 (つづく)