キクチに逢いたくて仕方ない(第5話)

 親切なおじさんのおかげもあって、僕らは無事にキクチの住まいへと到着しました。
 インターホンを鳴らし、そこからキクチの声が聞こえてきたところで、僕は言いました。
「こんにちは。新興宗教の勧誘です」
 普通に、
「あ、はい」
 と、言って何のリアクションもなしに、友人は扉を開けてくれました。……なんらかのリアクションは取れよ。
 気を取り直して、僕が普通の土産を手渡すと、彼は普通に礼を述べて受け取り、NOVさんが買ってきたテ〇ガには、普通に迷惑そうな顔をしていました。
 その後、家に上げてもらい、ウーロン茶なぞを僕らに振舞うと、彼は、
「おめぇらがあんまり早く来るから、まだ歯を磨いてねぇ。ちょっくら磨いてくるわ」
 などと言って、洗面所に消えて行きました。
 最初は窓から周囲の風景なぞを見ていた僕とNOVさんですが、そのうちに飽きて部屋の中を見回すと、台所に大量のリゲインの空き瓶と、マミー(青りんご味)の空きパックを発見しました。
 こいつ、どんな栄養補給をしてやがるんだ!?
 なんか触れてはいけない気がしたので、僕らは多くを語らずに、彼を待つことにしました。
 キクチが歯磨きを終えたところで、あまり部屋にいても仕方ないからということで、さっそくキクチ・プロデュースの豊田観光に出かけることに。
 現地の移動は、キクチにお任せしたので、僕らは駐車場に出て、彼の車に乗り込みました。
 乗り込んだところで、行程を訊ねてみると、おもむろにキクチは豊田市街散策マップなぞを取り出し、
「今日は、こんなところに行ってみたいと思う」
 などと言って、自分のプランを紹介してくれました。
 群馬における悪魔の所業から6年。すっかり成長したキクチの姿に、僕は感動を禁じ得ませんでした。
 しかも、最初の目的地に彼が選んだのは、戦国の好きの僕を思い計って、『松平郷』(詳細は次回)だと言うのだから、感動もひとしおです。
 俺は今、猛烈に感動している!
 早くも感極まった僕を乗せ、キクチの愛車は快適に出発しました。 (つづく)