キクチに逢いたくて仕方ない(第6話)

 キクチの運転で、僕らは松平郷へと向かいます。
 松平郷とは、戦国大名として有名な松平氏が拠点とした由緒ある場所だそうです。
 え? 松平氏なぞ知らんと申しますか? そしたら徳川家康はご存知でしょうか。徳川家康と名乗る前、家康の名前は、松平元康と名乗っていたんですよ。つまり松平郷とは、家康一族を輩出した場所に他ならないのです。
 戦国時代好きな僕の血が滾るスポットであったことは言うまでもありません。
 下道でゆっくり行っても良いと伝えたのですが、キクチが6年前の汚名返上に燃えているのか、時間がもったいないと言い張ったので、贅沢に高速道路を使い僕らは松平郷へと向かいました。
 最寄りのICで高速を下りると、すぐにそこは田舎道。静岡市でいうところの、葵区のけっこう北の方みたいな感じ。こんなところの先に、ホントに観光スポットがあるのかと思えるほど、何もない道で道中、若干の不安にさいなまれたのですが、くじけずに進んで行くと『松平郷』を発見しました。
『松平郷』は普通に田舎の村で、村の中心に神社や公民館、博物館などの施設があるようでした。なにはともあれ施設を見学しようと、キクチが車を停めようとすると、広い駐車場があるにも関わらず、けっこう車で埋まっていました。
 こんなところ(失礼)に、ここまで人が集まるもんなのか?
 そんな僕の疑問は、すぐに解決しました。周りに張られていたポスターを見るに、明日が松平郷の名物行事『はだか祭』の日だったのです。それで村の人達が総出で準備をしていたので、駐車場が一杯だったというわけですな。
 どうせなら明日来れば良かったなどと話しつつ、合間を縫って、1台分空いていた場所にキクチは車を駐車させ、僕らは外に出ました。
 祭の準備に追われる村民を尻目に、神社やその従属建物を見たり、無料の博物館を見て回る僕達。
 特別に目を引く物はなかったですけど、空気が美味しく、雰囲気も良かったので、松平郷は僕的に気に入りました。博物館も無料のわりに、そこそこの物が展示されていましたしね。
 しかしながら、そう長い時間、暇を潰せるスポットでないこともまた確かな事実。
 およそ30分程で、僕らは車へと戻りました。時刻は11時過ぎ。
 相談した結果、朝飯が早く、すっかり腹が減ったので、昼食を取ろうと言うことに。
 キクチは、彼お勧めの名古屋飯屋に向かい、車を走らせました。 (つづく)