キクチに逢いたくて仕方ない(第7話)

 昼食へ向かう車内で、僕はキクチに訊ねます。
「ところで今から行く名古屋飯って、いったい何なのさ?」
 キクチは胸を張って応えました。
「フフフ。今日はラーメン好きなお2人に、台湾ラーメンを召し上がって頂こうかと思っておりやす」
 おお、台湾ラーメンとは! 出かした!
 なぜ愛知まで来てラーメンなんだと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、名古屋で台湾ラーメンといえば、そこそこメジャーな、いわゆる名古屋飯なのであります。
 あ、あの企画に対して投げやりだったキクチが、ちゃんとした名古屋飯かつ僕らの好きなラーメンを昼食に考えるとは……かっ、かっ、かっ、感動じゃぁぁッッ!
 もはや涙で曇って周りの景色が見えない僕を乗せて、キクチは秘境松平郷から豊田の中心地を目指して車を走らせます。
 そして目的地付近に着いたところで、キクチは自信満々に言いました。
「あそこの店さ!」
 彼の指差した店の方を見て、僕は目を疑いました。
「キ、キ、キ、キクチ君。今、君が指差した店、シャッター下りてなかった?」
「そ、そんなバカなッ!?」
 店に近づいて見ると、確かにシャッターは下りていました。
 動揺を隠せない僕達。NOVさんが重い口を開きました。
「今の時刻は、まだ12時前ですよね? 12時開店とかじゃないですか?」
「うーん、しかしながら普通の飲食店て、昼に開店するなら、遅くとも11時30分ぐらいに開店するもんじゃないですかね? ……なにはともあれ、下りてみましょうか」
 キクチに店の前に車をつけてもらい、車を降りてみると、シャッターに営業時間が書かれており、そこには営業時間が夜だけの旨が書かれていました。
「ギャァァァッッッ!」
 僕らの脳裏を過ぎったのは、以前に群馬に行ったときにキクチの薦めるラーメン屋に3軒連続で入ることができなかった、あの悪夢(これまた詳しくは、2006年秋に更新の『キクチ・クエスト』をご覧下さい)。
 キクチがおそるおそる言いました。
「あの……すぐ近くに美味しい坦々麺の店があるけど、やっぱり名物じゃなきゃ嫌だよな?」
 しかしながら、僕とNOVさんは結構な空腹であったため、背に腹は変えられず、坦々麺屋を受け容れることにしました。 (つづく)