魁! 無双祭塾!(第10話)

 今日はどこから来たのかと、謙信公(?)に話しかけられ、ドギマギしている僕に反して、無双祭さんは平然と応対しています。
「今日は静岡から」
「ほぅ。駿河から」
 2人の会話は弾みます。
 その傍らで気恥ずかしいので、さっさと着替えのTシャツを買いに行きたいものの、無双祭さんを置いて行くわけにもいかず、ただ呆然と立ち尽くすしかない僕がいました。
 こいつは何とかして、この場を離れなければ!
 そう思った僕は、ある一計を案じました。
「無双祭さん、良かったら謙信公と一緒に写真を撮りましょうか?」
 これぞ、上杉家の軍師、宇佐美定満でも見抜けないであろう、僕の奇策! 名づけて、『2人で写真を撮ったところで、どうもありがとうございましたと、足早に立ち去る作戦』! 策略が奇跡を呼ぶ!
 ええ、逆の奇跡が起こりました。
 無双祭さんと謙信公のツーショット写真を撮り終えたところで、僕が立ち去る前に、謙信公から僕に対して、まさかの申し出が。
「お主もワシと一緒に写真をとらなくて良いのか?」
 そう訊ねられて、僕は撮らなくて良いと言える程、空気が読めない人間ではなりません。
「じゃ、じゃ、じゃあ、よろしくお願いします……」
 ……フフ。こうもあっけなく我が策を破るとは、見事だ、謙信公! グハッ!
 こうして僕は、図らずも謙信公とツーショット写真を撮ることに。
「では『いざ、出陣』の掛け声と共に、シャッターを押してもらうゆえ、お主も一緒に言うのだぞ」
 これ以上ない辱め! ドMの僕でも耐え難いよ!
 しかし、実際のところ小心者の僕は、小さなガッツポーズをとりつつ、これまた小さな声で言われたとおりにするのです。
「いざ、出陣……」
 パシリ。
 母上様、お元気ですか? 僕は休日に、わざわざ新潟まで来て恥をかいています。
 まぁ、これで終わったからいいさ。
 そう自分に言い聞かせ、平静を保とうとする僕に、更なる悲劇が襲いかかります。 (つづく)