美食倶楽部最大トーナメント(第50話)
「攻守交替!」
レフリー山本山の声で、ジョイトイの意識は現実世界へと舞い戻って来た。
俺はいったいどうなっていたんだ?
意識がはっきりしてくると、口内には牛乳が残っており、口の周りに牛乳が付着している様子もない、つまり吐き出していないこともわかった。
白昼夢だったのか?
敗北を喫していないことに安堵しつつ、牛乳をバケツに吐き出したところに、ゲオルグが声をかけてきた。
「僕の攻撃に耐えるとは、さすがですね!」
人懐っこい笑顔を浮かべるゲオルグであったが、それもこのときのジョイトイにとっては、ただただ背筋を冷たくさせるだけの代物であった。
この男、とんでもない面白さだ!
先程は敗北寸前のところで、ジョイトイの負けん気のせいか、はたまた美食倶楽部メンバー達の意地なのかプライドなのかは知れないが、ともかくそんな思いが彼に白昼夢を見せたのだろう。結果、何とかゲオルグの攻撃を凌ぐことができたわけだが、再び奇跡が起こるとは思えない。同水準のネタを、もう1度は見せつけられた日には、恐らく耐えられないだろう。
次の攻撃で決めないと、敗戦は濃厚。ならば鉄板ネタで勝負するしかない。
しかし、過去から現在に至るまで、自らの天然任せで笑いを取ってきたジョイトイには何を披露すれば良いかわからなかった。彼の場合、何気ない行動が爆笑を起こすのだが、自ら笑いを狙ったときに限ってダダ滑りを起こす傾向にあるのだ。
ここまで来て滑り気味のネタ披露をした日には、目も当てられない。いったい何をすれば良いのか?
自問自答したときである。過去でたった1度だけ、自らが笑いを誘うべくして、大爆笑をさらったネタがあったことを思い出した。
あまり世間にさらすべきネタではないが、この状況とあっては、もはや繰り出すしかあるまい。
次回、ジョイトイのプライドを捨てた渾身の一撃が炸裂する。
長かった『美食倶楽部最大トーナメント』ですが、次回でいよいよ完結です。(つづく)