美食倶楽部歌下手王決定戦(第9話)

 勝負に暗雲が立ち込め始めたところで、僕は嫁に告げます。
「次の『恋するフォーチューンクッキー』なんだけど、順番が来たら、俺は口パクしてるから、そっちが歌うってのはどうだ?」(*嫁は歌が上手いです)
「そんなん普通に不正がばれるでしょ」
「だが、このままだと俺は負けるぞ」
「仕方ないじゃん。ジョイトイ君より下手なんだから」
「……ブログの企画上、俺は負けるわけにはいかないんだ。代わりに歌うことができないんだったら、せめて良きアドバイスをくれ」
「あなたの歌い方は、音程を気にするあまり抑揚がないのよね。一昔前の採点機械だったら、音程さえ合っていれば高得点が出たんだけれど、最近のは抑揚を付けないといい点数が出ないと思う」
 なるほど、そういうことか。そこさえ微調整すれば、まだ十分に逆転の可能性があるな。
「あい、わかった。抑揚を付ければ良いなんて、たやすいことだな」
 こうして僕が抑揚を念頭におき、3曲目の『恋するフォーチューンクッキー』対決を行ったところ、ジョイトイ83.815点、ゲン81.549点。負けとるやないかーい!
 さらには、ここでおっさんがAKBを歌う気持ち悪さが、どうでもよくなるような面白事件が発生。
 このカラオケ機材は、得点発表時にコメントを付けてくれるのですが、僕の得点を出す際のコメント(要約)が、
『あなたは自分の歌に自信過剰気味です。正しい音程を意識して歌いましょう』
 というもの。
 歌に自信なんてねぇよ! だからカラオケが嫌いなんだよ! 音程を気にして歌ったら、得点が伸びねぇから、抑揚を意識して歌ってやったら、自信過剰気味だと!? 大概にせぇよ、コラァッ!
 金属バット等が近くにあれば、間違いなくカラオケ機材を破壊していたであろうほど怒り狂う僕。それとは対照的に、大爆笑のジョイトイと嫁。……貴様ら、フリーザクリリンをやったみたいにしてやろうか?
 この1件で、完全にペースを乱された僕は、続く4曲目『ミッドナイトシャッフル』対決においても、ジョイトイ88.470点、ゲン80.196点と惨敗。
 むむっ、気付いてみたら4戦4敗じゃないか、俺。
 電卓を叩いたところ、4曲の合計得点、ジョイトイ345.657点、ゲン327.237点。
「もう次の曲で俺が100点を取ったにしろ、ジョイトイが82点取ったら、負けが確定じゃないか!」
 僕の悲痛な叫びが、カラオケルームに響き渡ります。(つづく)