美食倶楽部歌下手王決定戦(第10話)

 4曲終了時点で、既に勝負は着いたようなものでしたが、まさか降伏するわけにもいきません。血の最後の1滴まで絞り出して戦うのがもののふよ。
 しかしながら、音程と抑揚の狭間ですっかり混乱をきたした僕が、勝てる道理がありません。
 もはやどうして良いかわからなくなっていた僕は、最終5曲目の『時の河』対決においても、ジョイトイ87.185点、ゲン67.500点と、もはや普通に歌ってはいるとしたら、到底考えられないような低得点を叩き出し、敗北を喫したのでした。
 総合得点のおいても、ジョイトイ432.842点、ゲン394.737点と大惨敗。さらには各曲の対決においても5戦5敗と、もはや目も当てられない結果に。
 企画段階で、ジョイトイの口から発せられた、
「各曲対決(先に3勝した方が勝ち)だと、先に3勝してしまったら、残りの2曲が消化試合になるから、合計得点対決にしよう」
 との自信満々発言に、怒髪天を突いた僕でしたが、まさかその言葉どおりになってしまうとは。これ以上の悲劇はありません。
 しかし、ジョイトイのような男に大敗北を喫したとあれば、ゲン家末代までの恥! 今後も飲み会の後、カラオケに執拗に誘われるのは耐えられん! ここは、どんな手を使ってでも勝たねばならぬ!
 そんな気持ちが高まり、僕の口からまさかの発言がされます。
「とりあえず、今までの5曲は練習ってことで」
「はぁ!?」
 ジョイトイと嫁が、蔑んだ目でこちらを見てきますが、そんなものを気にしている余裕はありません。
 僕は高らかに宣言します。
「次に歌う1曲にて、勝敗を決すると言っているのです。課題曲は、キン肉マン関連の楽曲限定とする」
 えー、賢明な読者の方は、既にお察しかと思いますが、念のために解説すると、僕の独断で、今までの勝負はなかったこととし、僕の造詣が深く、ジョイトイには馴染みのない『キン肉マン』関連の楽曲限定で、改めて雌雄を決しようじゃないかと言っているのです。 
 つまり超ハンデマッチを取り行おうと言っているのですな。
 まさかの発言に、僕らのカラオケルームが震撼したところで、次回に続きます。(つづく)